六月下旬、新緑の中ニペソツ山に向かう。だが小天狗を過ぎると雪渓が多くなり歩きにくくなる。途中、天狗コルの天場で腰を下す。突然、グウー!という動物の鼻息が聞こえ、後ろでヤブを揺らす大きな音がした。私はとっさにクマスプレーに手をかける。幸い何事もなかったが、進行方向の雪面に山オヤジの足跡がくっきり残っていた。彼も相当驚いたと見え、一目散に逃げた様子を足跡が物語っていた。夕刻、前天の天場に着く、周辺一帯には足の踏場もないほどイワウメが咲きこの世の楽園を思わせる。この荒々しい男性的な山容のニペソツ山にもこんなやさしい表情を見せることもあるのだ。 |