大雪山はアイヌ民話に彩られた山である。それだけにこの山ほど雰囲気が漂うピリカメノコの姿が似つかう山はないと思う。 いつの日であったか、ふとした切っ掛けで関西から訪れたという明るく気立ての優しい方を案内したことがある。三川台を下ると流れ一面にエゾノリュウキンカが咲き足の踏み場もない程である。彼女は花々に小柄な身を沈めいつまでもその場を離れようとしない。私は少し離れた所からそっと眺めていたが実に清々しい。彼女の若い感性は花の下で遊ぶコロポックルなどアイヌ民話に登場する妖精たちの姿を追い求め、メルヘンの世界をさ迷っているかのようだ。まるで夢の中のできごとのような光景である。 あの日から月日が流れ、今、こんな他愛もないことが想い浮かぶのは大雪に住むという気まぐれな春の女神の悪戯であろうか?
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